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育休は近いのに見えなかった“半径1kmの世界”を楽しむきっかけになる

男の育休リアルストーリー Vol.3

自身の育休取得経験から、政府の掲げる「2020年までに男性育休取得率13%」に
0.00001%でも貢献したいと勝手に思い立ち、この企画を始めます。
取得したのはたった1ヶ月でしたが、それでも僕にとっての育休は
「育休は男性の研修制度の一つになれば良いのに」と思うくらい貴重な経験でした。

その「リアル」を1人でも多くの人に届けたい、
男性の育休取得率たった3%(女性は82%…!)時代に
自らの意思で育休をとった変な(素敵な)人にたくさん会いたい!
という二つの想いからインタビューを始めることにしました。

今回お会いしたのは、山下健介さん。
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(株)リクルートマネジメントソリューションズで人材・組織開発コンサルティングのマネジャーとして活躍されています。

“育休計画書”を作成して上司と相談したという山下さん。
なぜ育休を取得したのか、実際とってみてどうだったのか、
取得の準備や育休中の失敗談など、リアルなお話を伺ってきました。

山下さんの育休データ

・家族構成:奥さん、息子さん(6歳)娘さん(3歳)
・奥さんのお仕事:製薬会社勤務
・取得期間:第二子誕生から3ヶ月間

 

家族との向き合い方を変えたことで見えてきた育休という選択肢

−育休をとられたのはいつですか?
娘が生まれた2014年5月〜7月、ちょうど100日くらいです。
一人目の時には育休なんて全然考えもしなかったです。
一人目が生まれた時には、僕も部署を異動したばかりで覚えなければいけない仕事が多く、
生まれる瞬間だけは立ち会いに行かせてもらいましたが、それ以外は全然育児にしっかり関われていなかった記憶があります。
一人目のときは異動後初めてのお客様に対する研修実施納品の当日に生まれて(笑)、お客様や一緒に働いている方々のご好意で何とか調整をして駆けつけたという感じでした。
異動したばかりだったこともありますが、周囲にとった方がいなかったので当時は育休なんて考えつかなかったですね。

−一人目が生まれてから二人目が生まれるまではどんな働き方、家族との関わり方をしていたんですか?
妻が1年間は育休を取っていたんですが、保育園に入った半年間は本当に大変でしたね。
僕は当時、保育園に子どもを送り、帰宅後に皿洗いをするだけ。
それ以外は何もしていなかったけれども、自分は育児も家事もやっているという気になっていました。
段々と妻の負担が大きくなっていったこともあり、よく喧嘩していた気がします。
一方で仕事も徐々に大きな案件にアサインしていただくようになってきたので、やりきらないとという思いもあり
「このままで続けていけるんだろうか」と半年くらい悩んでいました。
ですが、よくよく妻の話を聞いてみると「色々とやってほしい」というわけではなく、
「ここだけやってくれたら助かる」と言っていることがわかってきたんです。
例えば、妻は朝、夕飯の準備をして出かけるんですが、その間に子供の保育園の準備や朝食を食べさせるのを僕がやるとか。
そこだけやろうという約束をして初めてみたら、ちょっとずつ関係もよくなっていって
「これはたしかに大変だ」ということが体感的にわかったんです。
最初のうちは2人で頑張りましたがなかなか難しいということで、妻の両親が近くに住んでいたこともあり、
サポートに来てもらえる日を作ったり、徐々に妻の負担が減らせるようになっていきました。
ただ、僕は料理ができなかったので、完全には妻の代わりはできなかったんですよね。それさえできれば、休日に「ちょっと気分転換に外出してきていいよ」って言えるのに…とずっと思っていました。

−奥さんは何をされている方なんですか?
もともと製薬会社で外勤をしていて、子供ができてからは
内勤スタッフとして働いています。
大学時代は研究をしていたいわゆるリケジョ(理系女子)ですね。

−2人目ができた時は今回は育休を取りたいとすぐに思ったんですか?
思いましたね。
妻に何かあった時に代わりが担えないなと思ったんです。
家のどこに何が入っているかも知らないし、
生協をどのタイミングで何を発注しているかも知らないし、
予防接種のスケジュールとかも知らない…
これじゃまずいなと思いましたね。
あとは、長男とあまり関われていないと思っていたので、
このタイミングは長男としっかり信頼関係を築くチャンスだなと思ったんです。
2人目だから見る人も必要だしと。

 

“育休の先輩”の存在が大きかった

−それは2人目ができてから夫婦でそういう会話をしたんですか?

いえ、できる前からすでにしていましたね。
2人目がほしいねと話をしている段階で、
Twitter上で働き方に関するコミュニティを見つけました。
次に生まれたら育休を取りますってそこで宣言もしていたので、
すでに育休を取っていた他社の先輩に話を聞かせてもらっていたんです。

−育休を取ろうと思ったのは何でなんですか?
一番はやっぱり子供との時間は一瞬で過ぎていくなと思っていたこと。
僕は人生において家族との時間はなるべく大切にしたいなと思っていたので
1人目が生まれてからこのままで良いのかなとずっと思ってたんです。
そこで、過去に他社や会社で育休を取られていた先輩に話を聞いたりして情報収集しました。

−育休の先輩にはどんな話を聞いたんですか?
育休への入り方を中心に聞いていました。
職場で代替になる人がいないことへのケアが重要だから、早めに上司に意思を伝えておいた方がいいという話をもらいました。
実際に取得したのは2014年の5月からですが、半年前の2013年11月くらいには上司に話をしていました。
引き継ぎの計画も自分で立てて、上司に進捗共有、相談しながら作っていきました。
子供ができたとわかったのが9月か10月くらいなので、できて1ヶ月くらいで上司には伝えたという感じですね。
引き継ぎの計画も最初に話す時に大まかなものはすでに作ってあったんですが、
それをいきなりドンと出されても「お、おう」と戸惑うだろうと思ったので(笑)、
まずは気持ちを伝えるところから話をさせていただきました。

 

引き継ぎプラン資料化・収入のシミュレーションなど周到に準備

−最初に話した時の上司の方の反応はどうだったんですか?
「お話があります」と僕が切り出したのでどうやら辞めるって言い出すと思われたようで、
第一声では「驚いた」と言われました。
そのあと「これからはそういう働き方が必要になってくると思うし、良いと思うよ。」
「でも自分も経験したことがないし、わからないから一緒に考えよう。」と言ってもらえました。
そのお話をする前から僕は『2030年の働くを考える』という社内プロジェクトに参画していて、世の中の働き方の変化に興味がありました。それを職場でも話していたので、
「あいつならそういうことも言うかもな」と思われていたかもしれません。
上司から育休取得にOKが出たのは本当にうれしかったですね。
当時は妻の負担や自分の働き方を考えたときに、いまの生活を続けるのは難しいかもしれないと本気で思っていたので
ちょっと思いつめていたかもしれません。そんなに思いつめなくても、当たり前に選べるような世の中にはなってほしいなとは思いますね。

−育休のための引き継ぎ計画というのは具体的にはどんなものなんですか?
とある外資系企業で以前に育休を取られた方が、計画書を作ってフォーマットをブログで公開されていたんです。
それをベースに自分用に作り変えました。
育休での休み方も色々とあると思うんです。
長尾さん(3ヶ月の育休取得をきっかけに働き方改革!育休の年に全社表彰を受賞 - 100 × 1000)や

佐藤さん(育休経験はその後何十年もの人生への「投資」になる - 100 × 1000

のように引き継ぐというやり方もありますが、
僕は一度休んでまた同じ仕事・職場に戻ってくるという選択をしたので、どなたに何をどのように担っていただくかは丁寧に設計しました。
僕らのやっている仕事は、大きく分けると2つの工程があるんです。
一つ目は人材開発や組織変革に向けた企画設計の段階、そしてもう二つ目がそれを実行してモニタリングしていく段階。プロジェクト自体は社内外の専門家と協働しながら進めるので、工程によって役割分担のウエイトが違うんですね。当時進めていたプロジェクトでは、僕は前者の企画設計の役割の比重が高かったんです。ちょうど育休に入るタイミングでそのフェーズに区切りがつき、2つ目の実行・モニタリングフェーズにあたる案件が多かったということもあり、各案件ごとにスケジュールを調整していきました。。結果として、必要なものは他の方に引継ぎ、そうでないものは再度復帰後に私が担当させていただくという段取りをつけることができました。これは、担当していたお客様や協働している方の協力なしには出来なかったので、本当に恵まれていたなと思います。

先人がブログでサンプルを公開してくださっていたのも非常にありがたかったですね。
この準備期間中はとにかく生産性を意識していたので、ありがたいことに結果的に社内で表彰をしていただくこともできました。
やっぱり期限が決まると人は工夫するんだなという経験ができたのが大きかったですね。


−奥さんに最初に言ったのはいつだったんですか?
8月にTwitter上で『育休取ります宣言』をした後くらいに
「もし二人目ができたら育休を取ろうかと思ってる」という話はしていました。
いきなり本気のトーンで言っても「え…?」となってしまうと思ったので、
「どうせ嘘でしょ」みたいなやりとりをちょっとずつ重ねておくことも必要だろうと思っていたんです。
実際に上司に話す前にはもう一度ちゃんと「今度上司に話してくる」ということを伝えました。
その時は「本当に取るんだ」「そんなことして(キャリアは)大丈夫なの?」という反応でした。
「自分の経験自体がお客さんへの提案にも活きる仕事だから大丈夫だよ」ということを伝えて、わかってもらえました。そういえば、奥さんよりも実家の両親の方が「大丈夫なの」と心配していましたね。(笑)

−そのあたりの準備がすごく丁寧というか、周到な印象です。
たまたま周りに色々と情報があったということがラッキーだったと思います
あとは収入面でも人事の後輩が相談にのってくれて、2ヶ月なのか3ヶ月なのか、育休を使うのか有休を使った方が良いのか、
各パターンをシミュレーションしてもらって取得の仕方も決めました。
結果的には、最初の1ヶ月は有休にして、残り2ヶ月を育休として取得しました。
残りの有休数を見て、このパターンが復帰後に子供の病気など突発的に休みが必要になった時のために
有休をとっておける、且つ、収入面でのダメージが一番少なかったんです。

 

楽しい半径1キロ圏内の生活

−育休始まってみてからはどんな感じだったんですか?
5月のゴールデンウィークくらいが第二子の出産の予定日でした。
休みに入ってから約2週間くらいあったんですが、
それまでに妻のやっていることをある程度引き継ぎを受けておかねばと思っていました。
そうでないと長男との二人の時期が乗り切れないと。
初日はまず衣装ケースの引き出しに何が入っているか、どういう順番で入れるか、どういう時に使うものかを
教えてもらうというところから始まりました。
あとは最低限の料理の指導ですね。
奥さんからは「なんでその切り方をしたのか」とか指摘を受けてましたね。子供がニンジンの切り方が大きいと食べないとか、炒めるのにその切り方はありえない、とかです。確かにつくってみると、そのやり方通りにした方がおいしくできるのですが、ついつい反論してしまったりして最初はうまくいきませんでした。
佐藤さんから「新人なんだから自分の意見を主張する前に、まず全部奥さんの言うことを聞くんだ」とアドバイスをもらっていたんですが、ダメでしたね。新人失格です(笑)

−育休に入って生活が変わって、最初はどう感じられていましたか?
楽しかったですね。自分の知らない世界だったので。
新しいスキルが自分に身につく楽しさや、近所の公園でのコミュニティなどが新鮮で楽しかったんです。
育休中はほとんど半径1キロ以内で生活をしていたので、最後は電車に乗るのが怖くなっていましたね。
それから、普段よりも奥さんと一緒にいる時間が長いので、
普段はなかなかちゃんと背景まで聞けていなくて表面的なことで口論になることも
相手の話がちゃんと理解できるようになったのは良かったです。
「ああ、そういうことを考えていたんだ。アプローチは自分とは違うけど、言っていることはわかるわ。」
という風になれたのが良かったです。
最初はうまくいかなかった料理も次第に慣れてきて、最後の方は奥さんが起きてくる前に作り終えてしまっても
「おいしいね」と言ってもらえることが増えていました。結果としてですが、一人で黙々と料理しているのでやり方について揉めることもなくなり、お互いにとってよかったかもしれません(笑)。
あとは作るもの自体も変えていきました。
妻のレシピを真似ようと思うとあたりまえですが味が同じになってしまうので、
自分で新しいレシピを調べてきて作るようにしたんです。
そうすると、産後で外食がなかなかできない妻も家で新しいものが食べられるし、好評でした。


−育休中は奥さんも家にいらっしゃったと思いますが、家事育児は分担していたのか臨機応変にやっていたのか、どんな風にされていたんですか?
お休み中の食事は全部僕の担当でした。あとは長男の保育園の送り迎えですね。
奥さんには生まれた赤ちゃんの育児を全てやってもらって、長男との生活を僕がやっていたという感じですね。
あまり外に出たりしていなかったですね。週に1回、地域の集まりとか知り合いに誘われたものに行くくらい。
なので、やたら保育園のママや保育園の先生と仲良くなって、一日保育参加みたいなことも希望してやりましたね。
これはなかなか良い経験でした。
2〜3歳児は「本読んで」と言って本を持ってくるんですが、読んでる途中でもうどこかに行ってしまう。
それが何人も五月雨にやってくるので、1人1人丁寧に相手をしていると成り立たないということに気がつくんです。
頭で考えて対応するよりも、感じるままに対応していければ徐々にどう接すれば良いのかがわかってくる。

−なるほど、2人目が生まれてすぐだったからこそ必要なシェアのかたちだったのかもしれませんね。例えば、1人目で育休を取ろうと思っているんですという人から相談を受けたとして、その人にどんな風に取るメリットを伝えますか?
『父親になるためのスイッチ』を入れる期間として取ると良いんじゃない、と言うと思います。
奥さんが実家に帰ってしまっていると、奥さんの負担軽減と言う意味では成り立つと思いますが、
日々の小さな成長のプロセスを見ることはできなくなってしまう。
時間を共有するとか、その場にいるだけでも見えることがあると思うんです。
それがあった上で仕事に戻るのと全くそこが観れていないのとでは、その後の気の利き具合が違ってくるはず。
産後すぐだと育休を取っている期間中はパパにできることも少ないし、
期間中はひょっとしたら苦痛に感じることもあるかもしれないけど、後から考えると絶対に価値があると思います。
産後すぐなので、なるべく奥さんが動かなくて済むように家事側をやるのが良いでしょうね。でもそれも家庭によって違うかもしれないので、決めつけずに夫婦で話し合うのが大切な気がします。

 

育休を取ることで見えてきた世界

−やはり取得する時期によってその意味ややるべきことが違ってくるんですね。山下さん自身が育休を取られて良かったと思うことって何ですか?
まずは、料理を作れる自信がついたということはかなり大きいですね。
奥さんの代わりができるということだから。
それ以外でいうと、仕事以外の地域のことに目がいくようになったということですね。
公園に行った時に、ホームレスの人たちが社会復帰できるようにスポーツで支援をしている団体の方達に出会ったり、そういう普段は触れ合えない人たちと触れ合うことで、社会が見えてくる感覚を持てました。

−それは半径1キロという地域に視野が絞られたから見えてきたんですかね?
『生きている時間と場所』が変わったからだと思います。触れる情報が変わったから、思考回路が変わりました。
仕事ばっかりしている時には、家に帰っても仕事モードの頭になっている感覚だったんですが、そうじゃない自分というものを持つことができたんです。
『仕事上の役割でない素の自分』で物事を見ると見え方が変わってくる。
良い意味で空気を読まずに思ったことを言えるような場面も増えました
また仕事の日々に戻ったときに、いかにその感覚を持ち続けるかというのは今でも自分のテーマになっています。
お客様や協働者と話す時も、「仕事として」という関係から一歩踏み込んでその方がこの仕事で何を実現したいと思っているのかという、
パーソナルな価値観のところまで見て話すことができるようになったと思います。

−育休から戻った後の働き方は変わりましたか?
時間の使い方が変わりましたね。
育休から戻るときに家の中で二つ決めていたことがあって。
一つは平日に1日は必ず夕食を作ること。もう一つは週に3回、20時には家にいるということ。
これは数年間は続けていましたが、前者はいま出来ていないので、負荷をかけてしまっているなと思っています。
あとは、仕事だと、絶対に対面で会話をしなければいけないという前提を外したり、打ち合わせをなるべくまとめて移動が少なく済むようにしたり。
マネジャーとしても、メンバーに子供ができたら「いつ頃とるの?取った方が良いよ」と声をかけるようにしています。
その上で本人がどうするかは任せますが。
僕は必ずしもみんなが絶対育休をとった方が良いとは思っていないのですが、社内でとる人が増える、当たり前になることで選びやすくなるという意味では大切だなと思います。

本来は、時短勤務など毎日ちゃんと早く帰れるような働き方をすることも含めて選択肢があって、実際に選べるのがよい状態だと感じます。

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育休を取って触れ合う時間が増えると、実は仕事にも活きるような発見があると語る山下さん。
最後にこんな話をしてくれました。

家族に向き合っていると、どんどん仕事とプライベートの境界がなくなってくるような感覚があります。
「どちらかの時間がどちらかに取られている」という感覚だと時間がいくらあっても足りないんですが、
そんな風に行き来をしなくて良いように生きられると気持ちが健康になります。もちろん、いつもできているわけではないんですが、そうやって自分が捉え直すだけで、世界の見え方は変わりますよね。


これは僕も育休を取って捉え方が変わったところで、とても共感できるお話でした。
山下さん、お忙しい中ご協力いただきありがとうございました!